様々な分野に関して、義務教育や高等学校などで、基礎的な教育がされます。時には大学などで専門的な教授がされます。
しかし、日本では、投資に関して、まるで教育が成されていません。

大多数の人が基本を身につけていませんので、基礎的な当たり前の事柄についても、何が正しいのか、混沌としている有様です。
そして、自分が何をしているのか、何をしようとしているのか、全く理解していない、数多くの市場参加者を生み出します。

一部はすでに述べたことにもなりますし、教育を受けた方には常識的なことでお目汚しでしょうが、投資の授業があったとした場合の基礎講義をします。

投資のコスト

投資には期待値があります。
その投資利回りには、コストがのしかかります。

コストとは、売買手数料、投資顧問やアドバイザーの手数料。投資信託などでは、販売手数料、信託報酬、信託財産留保額などがあります。
売買の道具(PC等)の代金や勉強の費用、もし必要なら投資評論家の著作購入費などもあります。
そして、利益確定時には、税金が大きくのしかかります。

投資は、利回りとコストが重要になります。
つまり、利回りを最大にし、コストを最小にする必要があります。

コストについて一般的なものでは、売買手数料を最小に、税金を最小にすることが肝要です。
これらのコストの対策の1つは、購入したらなるべく長く持つということになります。

税金も回転売買をして、その都度何度も払うのではなく、投資の最後に利幅を伸ばして1回払うことがもっとも節約になります。NISAなどを活用することも大切です。
孔子の言葉で、「苛政は虎よりも猛し」がありますが、投資の世界でも同じです。課税は暴落より猛しと言えます。

苛政は虎よりも猛し。
孔子が弟子とともに泰山の近くを歩いていると、家族が次々に虎に食い殺されたと、一人の婦人が泣いていた。
孔子は不思議に思い、なぜ、この地から出て行かないのか?と尋ねた。
婦人は、ここでは税金を取り立てる、むごい政治が行われていないからだと言った。
孔子は、弟子に対して「苛政は虎よりも猛し」と諭したという故事に基づく。

投資信託のコスト

アクティブファンドがインデックスファンドに勝てないことが多いのは、これらのコストが大きく関係しています。

インデックスファンドより、アクティブファンドのほうが信託報酬が高いためであり、銘柄を入れ替える際のコスト負担(ただし、内部では課税ロスは発生しません)もあるからです。
ですから、インデックスファンドだけでなく、回転率が低いファンドのほうが複利効果が加わることもあり、収益が大きくなる傾向があります。

少なくとも1%を超える報酬手数料が掛かる投資信託等は、注意すべきです。私なら原則利用致しません。
この信託報酬は日割りで計算され、毎日差し引かれますので、福利効果を壊していきます。毎月分配型はもっと複利効果を壊します。
少しだけ目に見えるように計算して観ましょう。(計算プログラムを使用)。

分かり易いように販売手数料は0円とし、信託財産留保額もなしに、内部での銘柄の回転に伴う取引コストもないものとします。
純粋な信託報酬のみの比較です。

100万円を、A信託と、B信託に入れた比較です。
消費税は8%、譲渡益税は執筆時現在の20.315%です。複利運用を想定していますので、分配も追加投資もないものとします。
そして、唯一の違いは、信託報酬の差で、A信託は、信託報酬0.2%で、多くのインデックスファンドがこの前後でしょう。
比較のBファンドでは、信託報酬1.2%です。アクティブファンドを想定していますが、これほど安い物はあまりないでしょうが、1%の違いがよく分かるように0.2%と1.2%にしました。

双方、年率9%の運用が出来ると仮定します。
この9%はインデックスのS&P500の長年に渡る平均利回り近辺です。S&P500の過去30年の運用成績は平均年率9.89%です。

10年経過で売却。
コストが無い場合 : 1,367,364円の利益。
Aファンド(0.2%) : 1,047,278円の利益。
Bファンド(1.2%) : 851,338円の利益。

20年経過で売却。
コストが無い場合 : 4,604,411円の利益。
Aファンド(0.2%) : 3,470,971円の利益。
Bファンド(1.2%) : 2,612,258円の利益。

実際には、アクティブファンド等は、もっと信託報酬が高いものが多く、信託財産留保額も差し引かれ、販売手数料が掛かる物も多く、何度も内部で売買を繰り返し、取引コストも多く掛かります。
ですから、取り返しの付かない様な、もっと莫大な差になります。
これは短期投資と長期投資を比較した場合の売買手数料や都度徴税などのコストの差でも同じような事が言えます。

投資のコストには無頓着で意識を向ける方は少ないかもしれませんが、投資と言うのはコストとの戦いです。
投資を続ければ続けるほど、コストが増大します。コストは言わば、複利で効いてきます。
税金を始めとした、そのコスト負担は、その都度、純リターンを減少させ、毎回の投資資金喪失により、長い間では、巨大な投資収益の差となります。

コストには必要経費もありますが、まずはコストに目を向けることが大切です。

株式投資のリターンとは

株式投資で生まれる果実は、どのような仕組みで発生しているのでしょうか。
そして、投資の収益がどのように予定されているのか、分かりますでしょうか。
そもそも日本ではこれが根本的に分かっていない、もしくは忘れている人々が大多数に思えます。

投資リターンの期待値

株式投資で生まれる利潤は、どこから出ているのでしょうか。
株式投資のリターンは、当然の如く、各企業の収益が源泉です。

配当に回る分は、直接に株主の収益に、事業投資や内部留保の分は、やがて株価に反映され、資産価値を高めます。
つまり、配当+成長です。
これが投資の果実になります。投資の期待値はこれに集約します。

企業の利益と株価で言えば、PERという指標があります。PERとは、Price Earnings Ratioの略で、株価収益率のことです。
株価が一株辺りの利益の何倍になっているかの指標で、株価を一株辺りの純利益で割って算出します。

このPERは、必ずしも投資に役立つ指標とは言えませんが、株式投資の理論や期待値を説明するのに最適な指標です。

日本の株式市場の平均のPERは、その時々によって違いますが、おおよそ、14~17ぐらいだと思われます。
仮に市場平均をPER14とします。

1÷14×100=7.14285%となります。
これが日本の株式市場の平均利回りです。これを株式益回り、又は株式益利回りとも言います。

つまり、この場合、株式投資の平均の利回りが、7.14%になります。

株価と言うのは、短期的には、上がったり下がったりします。
しかし、長期で考えると、日本の市場が生み出すこの価値が、株式投資の平均的な収益になりますし、実際に近いものになっています。

このように、市場と言うものは、企業収益から、配当収益や株価の上昇などの投資利益を出して行きます。
平均2%が配当で支払われた場合、5.14%が理論的な株価の評価益上昇(平均株価上昇)となります。

例えば、一株1,000円の株式の一株あたりの年間の純利益が100円だとします。
この場合、現在の値段の1,000円を支払って株式を買うと、毎年の利益水準が同じと仮定して、約10年間の利益で、支払ったお金が回収出来て、ペイする訳です。
全株式が一億円であったとして、これを購入し、この会社が10年で総計一億円の利益を出して、買収費が回収出来ると考えると、分かり易いでしょうか。もちろん、最初の一億円相当はそのままの価値を保っています。
※実際には複利運用になりますので、約7年で回収が出来ます(後述)。

これらはどこの国の株式市場でもほぼ同様で、配当以外の部分だけで、日経平均株価が、戦後から約280倍になっているのは、こうした理由です。
日本では、平成バブルの異常相場がありましたので、一時的に当て嵌まらないように見えた時期もありますが、それを除けば、これが市場の投資収益の基礎になります。

アクティブ運用ファンドなどが、日経平均などのインデックスに勝っているか、負けているかを成績の基準にするのは、これらが大きな理由です。
少なくともあなたの運用する利回りが、平均的な利回りに長期的に負けているようなら、素直に指数連動型のETFなどを買って、可能な限り長く持っていることが望ましいでしょう。

人類最大の発明の複利

利確せずに投資を続けた場合は、複利効果があります(他項目でも言及済み)。
ですから、支払われた配当が無かったとして、7.14%の利回りですと、10年で約2倍(正確には7.2%で2倍)になります。20年で約4倍、30年で約8倍、50年では約32倍です。
つまり、100万円が10年で200万円に、20年で400万円、30年で800万円、50年では3200万円になるわけです。

これが平均的な投資収益の基本となります。
インデックスファンドや、TOPIX連動型などの指数連動型のETFExchange-Traded Fund、上場型投信)を持ち続けることで、この利回り程度の分配金+価格上昇(分配金分は低下します)が理論的に、また多くの場合、実際にも手に入ります。

この場合、市場の平均ですので、個別株ではもちろん違います。
成長も衰退もなく、常に同じ収益を計上する企業は希ですので、実際の利回りは個々変動します。

成長企業では、PER50などに評価されている場合もあり、この場合、2%の利回りですが、5年後に5倍の成長を遂げているとしますと、最初の株価から考えて、利回り10%になります。
さらに5年後に、その5倍の成長を遂げますと、利回りは50%になります。この期待がありますので、PERが高いわけです。
PER14の企業でほとんど成長しない場合は、10年後も7.14%の利回りです。
複利効果(複利周期1年)で比較計算しますと、7.14%の場合は、10年後で約2倍ですが、50%の場合は、約58倍になります。そして、そのまま持ち続けて20年後、7.14%で約4倍、50%の場合は、約3325倍です。

成長企業に投資を続けることの、継続の力が分かりますでしょうか、これが資本主義の世界の理(ことわり)と言う事です。
もちろん、衰退して行く企業や赤字が増えていく企業では、逆に毀損して行きます。

投資の基本スタンスに、割安性を重視する「バリュー投資」や成長性を重視する「グロース投資」がありますが、成長性に対して割安であるかを考えるGARP(Growth At Reasonable Price、ガープ)戦略と言うものもあります。
ガープ投資は、PEGレシオ(Price Earnings Growth Ratio)などを使って、成長性と現在株価を判断します。
PEG = 間近の予想PER ÷ 今後3年~5年間の成長率(EPSベース)
予想される成長率は、市場のコンセンサスを使いますが、トムソン・ロイターなど、PEGレシオを算出している所もあります。

さて、これが株式投資の投資リターンです。
プラスサムゲームのプラスの部分の、計算される収益、実現する理論的な収益になります。
事業として投資を考えた場合の事業収益の期待値です。

付随する投機リターン

株価と言うのは、その時々の、話題、経済時事、事件、政治、紛争などの思惑で、短期的に上がったり、下がったりします。
これが市場の揺れです。

この揺れは、市場が生み出した収益とは関係がない、短期的な株価の変動です。
トレードすることで、利益や損失を生み出します。これが投機リターンです。

この投機リターンは、実収益が生成している訳ではなく、本質は変動ですので、トレードは誰かの損が誰かの得になる、ゼロサムゲームの世界になります。
短期投資の世界は、このような分捕り合いのゲームです。

この揺れがどれほど生じるかは、市場を観測して見る必要があります。
しかし、GPIF(Government Pension Investment Fund、年金積立金管理運用独立行政法人)では、日本の市場の平均の揺れを30%と見なしているようです。

GPIFでは、揺れが平均30%であるとの想定で、長期投資を行っています。
揺れの投機リスクを排除して、あるいは想定して、投資行動をしていると言う事です。リスクと言うのは、上にも下にも行く可能性です。

もちろん、この30%はGPIFによる日本市場の平均の想定です。
企業によっては、50%などもあり得ますし、10%ほどしか、上にも下にも行かない安定した株価推移をする企業もあると言う事になります。
また、GPIFは東証一部が投資の主体ですので、この想定は東証一部の平均として、概ね正しいと思われますが、新興市場や地方市場では誤差が大きいとは思います。

また、良く言及されることですが、成長企業ほど、この揺れが大きくなります。上にも下にも大きく変動しやすいと言う事です。投資を考える場合、この揺れは大きくとも想定内とする必要があります。

PBR(Price Book-value Ratio、株価純資産倍率)に注目すると言う考え方が過去にはありましたが、現在ではこれを投資に役立てるという意見はほとんどありません。
ただし、平均PBRが1倍を切る場合、そこが揺れの下値の目安になります。資産価値以下になることを一時的な異常値と見なすわけです。
個別株式では、衰退しながら資産を毀損して行く場合もありますので、参考にはしにくいのですが、市場平均のPBRを見て、平均株価の下値の目処としてよく使われます。
最近では、サブプライムショック時の日経平均は、平均PBR0.9を下限として反発していますし、概ね暴落時に良く機能します。

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この揺れが投機リターンで、計算出来ないリターン、あるいはリスクになります。
日本では投資教育がされていませんので、株式投資をギャンブルのように考える人々がいます。それは漠然とこの投機リターンのみを見ているからです。
短期投資、つまり投機は、ゼロサムゲームの世界であり、ギャンブル同様の世界です。

不都合な事実

もちろん、お分かりでしょうが、実は投資として成り立つのは長期投資のみです。
どちらの経済研究所や大学の投資理論研究でも、すでに証明されている基礎的な原則です。
短期投資の世界では、全体のお金が増えたりする訳ではありませんので、投資研究では評価されません。

もちろん、短期投資で収益を上げることは不可能ではありませんし、非常に高い収益を上げることも出来ます。
しかし、勝った人の取り分は、負けた人が出していると言うことに留意することが大切です。
勝てる人は勝てますし、高い勝率を出し続けることが出来る人もいます。しかし、その影にスポットライトを浴びない、負ける人々がいてこそ、成り立っています。

短期投資は誰かの損が誰かの得になるゼロサムゲームですが、投資コストを上乗せすると、勝った人の取り分以上に負けた人が出していることにもなります。
事実上は、手数料や税金等のコストが大きくのしかかる、マイナスサムゲームなのです。

テクニカル指標などを駆使して勝てるのではないかと言われるのかもしれません。
しかし、ギャンブルでも、数学やモンテカルロ法やマーチンゲール法などを駆使して勝率を上げ、引き際を心得、勝ち続ける人はいます。

利益相反の構造

しかし、短期投資を推進せざるを得ない人々がいます。
取引のコストが自らの利益になる手数料商売の人々です。

投資をする側の人々の投資のコストは、多くの場合、投資をさせる側の人々の利益になるものです。
ここに利益相反がありますので、最大の注意を向ける必要があります。

その場合、どのようなことが起こるかと言いますと、この投資をさせる側の論理があたかも正しいと伝播され易くなります。
全体を考えれば、勝った顧客の取り分は、負けた顧客が負担すると言うことが分かっていても、株式投資とは、短期にトレードして、利確や損切りを繰り返していくものであるように語られます。

それで無ければ、手数料商売の事業が成り立ちませんので、盛んな売買の投機リターンに誘導し、投資リターンから目を背けさせるわけです。
最近では実質運用管理費用の高い投資信託を戦略の中心に置く場合も増えて来ています。
もちろん、それらは、彼らの利益になる行為で、投資家の利益になる事柄ではありません。

投資させる側というのは、国税庁、取引所、証券会社、投資顧問、アナリストを始めとする評論家などやそれに連なる人々、つまり、あなたからコストという建前で資産を掠め取る側です。
そして、騙されやすい、勉強しない、投資について間違った考えを身につけた人々は、それらを喧伝することもありますが、やがて、危うい立場に置かれます。
投資をさせる側と、投資をする側は、所詮、相容れないからです。

シンプルな結論

投機リターンは目立ちますが、長い期間で見ると、投資リターンの中に埋没して行きます。
企業は多くの場合、利益を計上して成長を続けます。
長く投資を続けて、複利運用を心がけることで、投機リターンは些細なさざ波になっていきますし、投資に対するコストも最も少なくなります。

ここでの論理的帰結は、以下となります。

  1. なるべく早く株式等を購入し、できるだけ長く持つこと。
  2. 可能であれば、揺れの下限近く(暴落したとき)に多く投資をすること。
  3. 成長企業を選ぶこと。(難しければ指数連動型のETFやインデックスファンドを持ち続けること。)

概ね、多くの著名な長期投資家のスタンスと同じになります。
オマハの賢人と呼ばれる稀代の投資家、ウォーレン・バフェットが主張して、また自ら実行していることと同じです。

ちなみに家計資産に占める株式等の割合は、欧州で約25%、米国で約50%で、米国民では所得の30%以上を運用リターンから得ていますが、彼らのしていることとほぼ同じです。
もちろん、米国や欧州(特にイギリス)では、義務教育で株式や金融の基礎を教えていますので、ここで述べたようなことは彼らに取って既知のことです。

日本の市場には、自分が何をしているのか、何をしようとしているのか、分かっていない多くの人々がいます。

あなたは何をしたいのでしょうか。

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